昨日台風が過ぎ去り、昼間の時間には一時だったが台風一過のような晴れ間が見られた。夏らしい陽射しと空の青と雲の白の強いコントラストを今年初めて見たような気がする。梅雨明けまでもう少しというところだろうか。
さて、私にとって夏の文学といえば、真っ先に作家アーネスト・ヘミングウェイが思い浮かぶ。『何を見ても何かを思い出す』はヘミングウェイの短編小説のタイトルだが、私は「夏になるとヘミングウェイを思い出す」 ヘミングウェイがフロリダのキーウェストやキューバのハバナで暮らしていたからかもしれない。釣り好きのヘミングウェイが巨大なカジキマグロを釣り上げて満足そうにしている写真などの印象が強い。キューバを舞台にした『老人と海』はカジキマグロと格闘する老人の話だ。『老人と海』は夏休みの課題図書にもなっていた。(笑) 『海流のなかの島々』もフロリダのキーウェストにほど近いビミニ群島が舞台になっている。夏になるとこれらの長編小説のほか、スペインの闘牛士の世界をヘミングウェイがルポタージュした『危険な夏』なんかも読みたくなる。ヘミングウェイは夏にピッタリの作家だ。
ヘミングウェイの小説には「酒」が登場することも多いが、私は下戸で酒が一滴も飲めない。(泣) それなのにヘミングウェイの小説の中で描かれる酒と酒を飲むシチュエーションが好きで、酒が出て来る箇所があると、それをマーキングしながら読んだこともある。『ダイキリ』という酒があることもヘミングウェイの小説で知ったし、『ダ・イ・キ・リ』という音の響きも気に入っている。真夏のハバナのバーで飲む『フローズン・ダイキリ』はさぞうまいに違いない。他にも登場する様々な酒の名前の響きや、登場人物達が酒を飲む雰囲気も好きだった。
「~赤ぶどう酒をフルーツ・ジュースで薄めたサングリアというものを飲み、われわれはすばらしい食事をごちそうになった」
ー『危険な夏』
ヘミングウェイの酒に光をあてた本もある。オキ・シロー著『ヘミングウェイの酒』
余談だが、スポーツ雑誌の『Number』のWebにヘミングウェイの『危険な夏』の闘牛観戦ルポタージュをスポーツ記事のお手本として高く評価する記事が出ていた。ヘミングウェイの簡潔で力強い文章がスポーツ雑誌のお手本とされていることは頷ける。ヘミングウェイが若かりし頃、どんなことに気をつけて文章を書いていたかはヘミングウェイの小説『移動祝祭日』に見ることができる。
「やるべきことは決まっている、ただ一つの真実の文章を書くこと、それだけでいい。自分の知っているいちばん嘘のない文章を書いてみろ。ー なぜなら、自分の知っている事柄、見たことがある事柄、他人が口にするのを聞いたことのある事柄を表現する真実の文章は、必ず存在したからである。ー もし書き出しが妙に凝っていたり、何かを紹介するか提示するような調子になっていたら、そういう凝った渦巻き模様や無駄な装飾は潔くカットして投げ捨て、最初に書き記した簡潔で平明な文章に立ちもどっていいのだということに、私はすでに気づいていた」
“ミス・スタインの教え”より
『危険な夏』は1960年当時、雑誌『ライフ』連載されていた。連載の一部を昔、神保町の古本屋で購入したのだが、どこにしまったものやら・・・見当たらない(泣)