昨日は未消化のJリーグ第33節浦和ー川崎戦が行われ主力を温存した浦和に対し見事に川崎が0-1で勝利した。これにより優勝決定は最終第34節に持ち越された。川崎FW小林悠選手の決勝点を昨季まで大宮アルディージャに所属していた家長昭博選手が右サイドをドリブル突破して見事なクロスボールによってアシストした。
今日はその家長選手に絡む記事を書いてみたい。
「家長ロス」
この言葉は2017シーズンに大宮が低迷した理由を端的に表すためにメディアが作り出した造語だ。
この言葉はおそらく2016シーズンに大宮アルディージャがクラブ史上最高位のリーグ5位になった要因として家長昭博選手の存在をその理由とし、かつ2017シーズンに家長選手が川崎に移籍したことをうけてチームがその補填をできなかったことを理由として大宮アルディージャが2部降格を招いたとすることを意味している。
私は前半部分、すなわち2016シーズンの大宮躍進の理由は半分しか合っていないし、後半部分2017シーズンの大宮降格の理由の部分は”嘘だ”と思っている。
そして2017シーズンはこの言葉とその意味にファンだけでなく、選手、もしかしたら監督までも踊らされていたのではないかと思っている。
これは2017シーズンの大宮アルディージャを俯瞰的にストーリーで見るとよく分かることになる。
大宮アルディージャはシーズン前に大前元紀選手、瀬川祐輔選手、茨田陽生選手、長谷川アーリアジャスール選手などを補強している。
つまり「家長ロス」をしっかり補填しているのだ。
大前選手は元清水エスパルスのポイントゲッターで2016シーズンには18得点もあげていて大宮への移籍が清水を紛糾させたほどの選手だ。瀬川選手はFW、茨田選手はMF、長谷川選手はFWもMFもできる。家長選手の穴を埋めるべく攻撃の選手を中心にバランス良く補填していることがわかる。
開幕戦の川崎戦ではこの新戦力のメンバー4人を渋谷洋樹監督は先発メンバーとして起用している。
大宮アルディージャは新加入選手を4人も開幕戦で先発起用することなどかつてはなく、この時の新鮮さに感動したことを覚えている。
つまり強化部長は選手を補填して監督もその選手を起用しているのだ。
しかしチームは勝つことなく低迷していく。
それを象徴しているのは正に開幕の川崎戦で0-2の無得点で完敗している。
渋谷監督は次にどんな手を打ったか?
フォーメーションをいじりはじめたのだ。つまり「采配」だ。
大宮の伝統の4-4-2を捨ててまで試行錯誤しているのが伺える。
強化部長は渋谷監督の解任を決める。
おそらく監督の「采配」に問題があると見たのだろう。
次に監督に就任した伊藤彰監督は何をしたのだろう?
FCバルセロナを指向し4-3-3のフォーメーションを導入する。
つまり「采配」をし始めたのだ。
これは前監督の解任の理由だから当然のことだ。
ちなみに伊藤彰監督のリーグ初戦は第14節のサガン鳥栖戦だが、この試合には上記にあげた新戦力のうち長谷川、茨田を先発させ、途中交代で瀬川を起用している。
つまりまだ新戦力もしっかり起用しているのだ。
これも象徴的だがこの試合も1-1のドローで勝つことができなかった。
強化部長は次にどんな手を打ったか?
再度選手を補填したのだ。
つまり選手に問題があると考えたのだ。
この時は強力な補填を行う。
マルセロ選手とカウエ選手だ。
この二人の移籍金と年俸だけで数億円の補強だ。
強化部長はここでもしっかりと選手補強をしているのだ。
伊藤監督はクラブから与えられた新戦力をしっかりと起用する。
さいたまダービー(浦和ホーム)でもマルセロ、カウエを起用し貴重な引き分け(勝ち点1)をもぎ取った。
しかしチームは低迷していく。
次にクラブはどんな手を打ったか?
強化部長と監督を解任したのだ。
つまり選手を補填した強化部長と監督の「采配」に問題があると考えたのだ。
次に監督に就任した石井正忠監督はどんな手を打ったのか?
当然「新戦力」を使わず、「采配」をし始めたのだ。
象徴的なのは、残留がかかった石井監督の初陣の先発メンバーの中に今季大宮アルディージャが莫大なお金をかけて「家長ロス」を補填した選手は大前元紀選手しかいなかったことに見て取れる。
もちろん石井監督に悪意はないのだが、大宮アルディージャが賛否はどうあれ今季積み上げてきたものをほぼ全否定するかたちで大宮の2部降格が決まった象徴的な出来事になってしまったのだ。
今季の大宮アルディージャの新戦力の補填と選手起用を含む采配を通して見ていると、大事な要素が欠けていることに気づく。
それは「ディフェンス」に係わる要素だ。
まず、選手補強の点ではゴールキーパーとディフェンダーの補強がほとんどされていない。
昨季のGK、センターバック、サイドバックの戦力をそのまま今季の戦力として使っている。
これがディフェンスを弱くした致命的な理由だと思われる。
次に采配の点では選手起用とシステムの点で変更がない。
渋谷監督、伊藤監督、石井監督にいたる「采配」の中でこのディフェンスの部分に関してはシステム上4バックということや選手起用について大きな変更点はない。GKもシーズン当初は加藤、塩田、松井をローテーションぎみに使っていた形跡があるものの終盤はほとんど加藤がレギュラーとして使われている。
今季の大宮の得失点を見てみよう。
得点28 失点55 得失点差-27(33節終了時点)
失点55は最下位新潟に次いでワースト2位だ。テレビ解説の仄聞で恐縮だがセットプレイからの失点率はJリーグ平均で約3割なのに対し、大宮アルディージャは今季4割だったという。
つまり55失点中、およそ22点程度がセットプレイからの失点ということになる。2016シーズンの大宮の総失点数は36だから22失点という数がどれだけ大きいかわかるだろう。
また、セットプレイからの失点は「家長ロス」とは何の関係もないこともわかるだろう。
セットプレイからの失点だけではない。これも詳しいスタッツ(統計)がないので具体的には示せないが、今季はコーナーキックや直接フリーキックで失点するシーンのほか、センターバックがドリブルで突破されるシーンや、サイドバックが簡単にクロスボールを入れさせてしまうシーンを何度となく見たことを思い出さないだろうか。
テレビ等で解説をする専門家たちが、口をそろえて「ディフェンスが強い大宮アルディージャ」という印象を持っていることを何度聞かされたことだろう。
昨季の大宮の得失点は
得点41 失点36 得失点差+5
リーグの順位は5位だが、得点ランキングが9位なのに対し、なんと失点は3位なのだ。
解説者が肌感覚だけで物を言っていないことがわかるだろう。
しかも得点ランニングが9位であることを考えても2016シーズンに大宮アルディージャが躍進した理由として家長選手の影響は否めないが、必ずしも家長選手の影響が強かったということにはならない。
「失点が少ない」ことが大宮アルディージャの躍進の理由だったのだ。
百歩譲ってボールキープ率などで「家長ロス」に関係があるにしても、その関係性は間接的で極めて低いと言わざるを得ない。
昨季失点ランキング3位に貢献したGK、ディフェンダーのメンバーが今季も同じメンバーだったために、それが盲点になり、ディフェンスが弱体化していることに気づかなっただけなのだ。
「家長ロス」はほとんど関係がないと見るのが自然なのではないだろうか。
大宮はそれを「采配」に問題があるとして監督を解任してきたが、実は「選手補強」の時点から問題があったのだ。「家長ロス」を意識するあまり「オフェンダー」を中心にした選手補強に偏りがあり「ディフェンダー」の補強をおろそかにしたことから、最悪の事態を招いてしまったのだ。
石井監督の「采配」をもってしても初陣で3失点してしまったのが象徴的な出来事のように思われる。
このことは強化部長を含め監督、コーチ、選手、ファン(もちろん私も含む)、大宮アルディージャに係わるすべての関係者が騙されていたように感じる。
「大宮はディフェンスは大丈夫だから、あとは『家長ロス』を解消するべくオフェンスを重視した選手補強と、その選手を使った『采配』があればいい」
という問題点の誤認から2部降格を招いたものと思われる。
このことは私も反省している。私は今季「家長ロス」については気にならなかったが、目先の「選手補強」と「采配」にばかり目がいってしまい、最後までディフェンスに重大な欠陥があることに気づけなかった。スリーバック(5バック)を数回提唱したことがあったが、それはあくまでも現有メンバーを前提にしており、選手補強という視点ではなかった。シーズンを通してオフェンスにばかり目がいってしまったことは否めないのだ。
「家長ロス」は迷信だった。
しかし「家長ロス」によって大宮アルディージャがあるべき姿を見失ったことは否めない。
そうすると皮肉なことに、メディアが使った意味ではなく、本当の意味で「家長ロス」が大宮アルディージャを2部に降格させたのかもしれない。
ただ逆に言うと、この反省点を踏まえれば、大宮アルディージャのあるべき姿が見えてこないだろうか。
来季まず何をしたらいいかというのがおのずと分かってくる。
さて、そのことについては次回以降に譲ることにしよう。