川崎フロンターレの優勝の勝因をさぐってみよう。
そこから見えてくる眺めがいかに大宮アルディージャと対照をなすものか分かってくる。
私は川崎フロンターレの優勝の勝因は大きくふたつあると思っている。
ひとつは新戦力と現有戦力を融合させて選手のポテンシャルを最大限発揮させたことだ。
もうひとつはディフェンスを重視した長期的なチーム作りの戦略があったということだ。
まず選手のポテンシャルを最大限発揮させた点について見てみよう。
「家長ロス」
この言葉は多くの人が大宮アルディージャが今季低迷したことの理由にしている言葉である。
川崎にも今季これと同じことが起こった。
「大久保ロス」である。
2013-2015シーズンに3年連続でJリーグ得点王に輝いた大久保嘉人選手がFC東京に移籍する事態が発生したのだ。
川崎フロンターレはこの穴を補填するために大宮アルディージャから家長昭博選手、ガンバ大阪から阿部浩之選手を補強する。
この選手達を現有戦力とミックスさせ2017シーズン総得点71でJリーグ1位の得点力のチームを完成させたのは鬼木達監督だ。
大宮アルディージャのファンからすると、それは補強した選手が良かったのだ、という不平が聞こえてきそうだが(笑)、そんなことはない。
今季の開幕戦、大宮アルディージャ対川崎フロンターレ戦を覚えているだろうか。
私はこの試合を観に行っているのでよく覚えている。
この試合はセットプレイから小林悠選手に、後半ロスタイムに中村憲剛選手にダメ押しのゴールを決められ0-2で大宮が完封負けした。
この試合で家長昭博選手と阿部浩之選手は先発で出場しているが、両選手ともアシストはおろかシュートすら一本も打っていない。
私の目からは家長選手は全くと言っていいほど機能しているとは思えなかったし、鬼木監督は後半のわずか12分で家長選手を交代してしまっている。
その時の感想はブログに投稿しているので興味があるひとは参考に見てもらいたい。
Jリーグ2017 開幕 第1節 大宮アルディージャ対川崎フロンターレ 中村憲剛のダメ押し弾に散った大宮アルディージャ(3月21日投稿)
Jリーグ2017 第1節 大宮対川崎戦 レビュー 勝敗をわけた選手交代の思い切りのよさ(3月25日投稿)
仄聞で恐縮だが家長昭博選手がチームにフィットしたのは今季の秋口くらいからだと聞いている。
それを証拠に家長選手の今季のスタッツ(統計)を見ると、得点数2、アシスト数4に留まっている。
4つのアシストの内、3つのアシストは優勝を決める浦和戦と大宮戦で記録したことになる。
家長選手が川崎フロンターレにフィットするのには非常に時間がかかっているということだ。
一方で阿部浩之選手はどうだろう。
阿部浩之選手はシーズン序盤からその才能を発揮し始めている。
5月に入ってから3試合連続得点を記録したあともコンスタントに得点を決めている。大宮戦でも開始一分で得点して今季の得点数を10とし自身初めてのリーグ二桁得点を記録した。
アシスト数も家長選手を上回る6アシストを記録しチームの得点力向上に貢献している。
2016シーズンの阿部選手のガンバ大阪でのスタッツ(統計)を見ると3得点3アシストに留まっていることから考えても、川崎フロンターレに移籍後にポテンシャルを発揮していることがわかる。
そしてそこにはベテランの現有戦力である中村憲剛選手の役割が大きかったのではないかと思っている。
私は大久保嘉人選手が川崎に在籍していた時の中村選手は中盤の後方に位置しパサーに徹しているような印象を持っていた。
前線は絶対的な存在であった大久保選手に任せ鋭い縦パスを供給するイメージがあったからだ。
しかしここ最近の中村選手の動きはパサーとしての役割だけでなく、パスの受け手としての動きをしている印象を持った。
鬼木監督も中村選手を中盤の後方で使うことなく、前目のポジションで起用しているように思う。
開幕の大宮アルディージャ戦でも後半ロスタイムに中村選手に数十メートルに及ぶ鬼のようなフリーランニングをされてダメ押しの失点を食らったことを思い出す。
今年37歳になる選手とは思えない運動量だった。
阿部浩之選手のような新戦力が発揮されたのは鬼木監督の采配とそれに見事に答えた中村憲剛選手の存在があったからではないかと思っている。
もうひとつの理由、ディフェンスを重視した長期的な戦略についてはどうだろう。
ここにはやはり鬼木監督の千里眼があったと考えている。
Jリーグ優勝が決まった後のインタビューで鬼木監督は、今季の戦略として「攻撃は最大の防御なり」という思想を見直し「守る時はしっかりと守る」という方針を取っていたことを明かした。
これについて中村憲剛選手は同じインタビューの中でシーズン当初はこれにより一時的に攻撃力が低下した印象を持ったことを証言している。
しかし、ぶれずにそれをやり続けた結果、シーズン後半に大きな成果を得ることができたということのようだ。
それを証拠に川崎フロンターレはシーズン序盤から中盤にかけては首位になることもなく5位前後あたりに低迷している。しかしシーズン終盤の残り15試合を無敗で逆転優勝したことからも証言が嘘ではないことを裏付けている。
もちろんここにも谷口彰悟選手や車谷紳太郎選手のような中堅の現有戦力の活躍があったことは見逃しえない。
川崎フロンターレの総失点数は32でリーグ3位だが、1位の磐田が総失点数30だから1位とわずか2点しかかわらない。
しっかりとしたディフェンス重視の戦略が長期的にたてられていた証拠である。
鬼木監督はディフェンスを重視してチームを作っていった。
そこには新戦力と現有戦力の融合があり、ベテラン選手や中堅選手の現有戦力がしっかりとチームを支えていた。
それがリーグの中盤になってようやく花開き後半の15試合無敗記録を作るまでになった。
得点王になった小林悠選手には過去に他クラブから多額の移籍オファーがあったようだ。
チームに留まりクラブに貢献した小林悠選手の存在も忘れてはならないだろう。
最後に今季大宮アルディージャを振り返るとすべて川崎フロンターレと真逆のことをやっていたことに気づかされる。
新戦力は現有戦力とマッチさせることができなかった。
ディフェンスを軽視したために大宮アルディージャが維持してきた堅守の伝統は失われた。
それを「家長ロス」と「監督の采配」のせいにして延々と見直すことをしなかった。
川崎フロンターレに目の前で優勝されたことは自省の意味も込めてたいへん重要な出来事であったと思わざるを得ない。