僕には、教えてもらわなくてもできることがあったんだ――簡単だよ。飛ぶってなんてすばらしいんだ!もっと高いところに行こう。
(J・K・ローリング『ハリー・ポッターと賢者の石』)
年末に《未来屋書店》で平積みの新刊を眺めていると『ハリー・ポッターと賢者の石』の新装版(2019年11月26日刊 静山社)の単行本があった。1999年の発行から20周年を記念して装丁のデザインを変えて出版されたようだ。『ハリー・ポッターと賢者の石』を含めシリーズ第3巻までの新装版が陳列されていた。パラパラと本をめくって「そういえば読んでないな・・・『ハリー・ポッター』。20周年か、今さらねえ」と思いながらその時は買わなかった。
むかし作家の桜庭一樹が、いわゆる剣とか魔法とかがでてくるファンタジー小説が苦手だ、と書いていたのを思い出す。いかに世間がもてはやそうと、やっぱりそういうことってあるよなあ、と買わない理由のアリバイを作った。
別の日に《紀伊國屋書店》へ。今度は漫画の新刊コーナーの平積台を眺めていると、目に飛び込んできた漫画があった。『午後3時 雨宮教授のお茶の時間』(2019年12月15日初版 新潮社)。漫画はビニールがかかっていて中身は見られないから少しでも情報を得ようとひっくり返してみると、あらすじにこんなことが書いてある。「・・・イギリス文学とイギリス菓子をこよなく愛する教授がいた・・・」帯にもいくつかのイギリス文学とそれにまつわるお菓子がイラスト入りで載っているではないか。その中に見つけてしまったのだ。「『ハリー・ポッター』のトリークルタルト」。
ピンときたね。「ははーん、『ハリー・ポッター』には、なんとかタルトみたいな乙女心をくすぐるようなスイーツも出てくるのか。イギリス文学とお菓子的な要素もひっくるめて『ハリー・ポッター』は人気があるんだな!(そんなことある?)調べてやる」
即行で漫画と『ハリー・ポッターと賢者の石』を買う。今度は買う理由のアリバイを作って。しかも単行本を買ってつまらなかったら高くつくと思って安全サイドで文庫を!(なんてセコイんだ!ちなみに『ハリー・ポッター』シリーズは単行本が数種類あるほか、新書版、文庫版すべてある)
読んだ感想を言うと、正直面白かった。うまく説明できないけど、子供たちをワクワクさせる物語の語り部というのはJ・K・ローリングのような人をいうんだなと思った。文庫の作者紹介をみてビビったね。「67か国に翻訳され、4億冊以上を売り上げる超ベストセラー・・・よっ、4億冊⁉」いったいこの人はどれだけの人を喜ばせてきたんだろう。本だけじゃなく、映画にもなり、遊園地のアトラクションになり、あげく漫画の中のお菓子にまで登場して楽しませてくれるというのか。
トリークルタルトは翻訳では糖蜜パイになっているようなので注意していないと見落とします。