大宮アルディージャが降格の決まった翌日11月27日に森正志社長が石井正忠監督と来季の契約をすることを確実視するメディアの記事を見かけて愕然としている。
もし信憑性が高い記事なら、私はここに落とし穴があることを危惧している。
私は大宮アルディージャは石井正忠監督と契約してはいけないと思っているので、その理由を書いてみたい。
その理由は短期的な視点と長期的な視点からふたつある。
ひとつめは石井監督は大宮アルディージャを残留させるというミッションをクリアしていない。
これは決定的な理由だ。
分かりやすい例があるので紹介したい。
今季シーズン途中で指揮をとることになった監督は多い。その中でも顕著に結果を出した浦和レッズを例にしよう。
浦和レッズはミハイロ・ペトロビッチ監督を今季途中解任した。ペトロビッチ監督はサンフィレッチェ広島や浦和レッズを複数年にわたって指揮をとり好成績を保った優秀な監督だ。しかし今季は成績不振となり解任となった。
後任は堀孝史監督だ。堀監督はコーチから昇格する形で監督に就任した。しかしその後も浦和レッズはリーグ戦で上位に食い込むことができずに低迷したがACLを10年ぶりに制し浦和レッズにビッグタイトルがもたらされた。
ACL優勝が次期監督としてのミッションとなっていた証拠は優勝を決めた翌日に浦和レッズが堀孝史監督との契約を発表していたことからも分かる。
これは監督は常に厳しく結果を求められるという分かりやすい例なのではないだろうか。
堀監督が就任したのは7月30日だった。一方で石井監督の就任が11月5日だったことに対して時間的な猶予が無かったことに同情する声もあるかもしれない。
しかしこういう向きに対して元大宮アルディージャ監督の三浦俊也さんがそれをきっぱりと否定するような主旨のコメントをテレビ解説の中でしている。
「Jリーグ(現代サッカー)の中で(途中交代した)監督が十分な時間を与えられることなどない。そのうえで結果を求められる”非常識な世界”がJリーグ(現代サッカー)なのだ。」(テレビ埼玉の中継にて)
これはJリーグだけでなく海外のクラブチームを含んだ現代サッカーの中で顕著に言えることで”非常識”だが”当たり前”の世界であることを表現していて納得感がある言葉だ。
石井監督は現代サッカーが求めるミッションをクリアできなかった。これは致命的だ。
これが石井監督と契約してはいけない短期的視点からの理由になる。
ふたつめの理由は石井監督が現在の大宮アルディージャの監督としてマッチしないのではないかということだ。
ここでは鹿島アントラーズを例にしてみよう。
鹿島アントラーズは石井正忠監督を解任した。石井正忠監督は選手としてそのキャリアのほとんどを鹿島アントラーズや前身の住友金属工業で形成した人だ。2015シーズンから鹿島アントラーズを監督として指揮し今季2017シーズン途中で成績不振により解任された。
後任は大岩剛監督だ。大岩監督も浦和の堀監督と同様にコーチから昇格する形で監督に就任した。
大岩監督が監督に就任した経緯が興味深い。
鹿島アントラーズにとって2017シーズンは年俸が1億円を超えるペドロ・ジュニオールやレオ・シルバのような選手のほか韓国からクォン・スンテ、国内では金森健志、三竿雄斗といった大型補強をした年だったそうだ。
このうち主力に定着したのはレオ・シルバとクォン・スンテにとどまり、かつレオ・シルバはケガで戦線を離脱することを余儀なくされたようだ。
「新戦力のポテンシャルを発揮できなかった」おそらくこれが石井監督が解任された一番の理由だ。
クラブはチームを強化するために莫大なお金を使って選手補強しているのだ。企業でいえば一番投資した部門ということになる。その事業を失敗されてはクラブはたまったものではないのだ。
今季の大宮アルディージャを例にすると大前、茨田、瀬川、マルセロ、カウエ、キム・ドンスのような選手の補強ということになる。マルセロ、カウエのような選手には移籍金と年俸で数億円もの費用がかかっていると聞いている。
よく昨季まで大宮に在籍していた家長選手の穴を埋められなかった、というような論調があるがそれは荒唐無稽な話しで、クラブは莫大なお金を使ってその穴を埋めているのだ。
新戦力のポテンシャルを最大限発揮することが現場マネージャーである監督の仕事なのだ。
石井監督が鹿島アントラーズを解任された理由は付随的に他にもあるようだ。
それは選手への求心力だ。
それを象徴する出来事が2016シーズンの8月20日の湘南ベルマーレ戦で起こった。
それはFW金崎夢生選手と石井監督の衝突だ。金崎選手はこの行為によってハリルホジッチ監督に日本代表メンバーから外されている。
これは金崎選手、石井監督のどちらが良い悪いの問題ではない。理由はそれぞれあると思うし、まして部外者の私が口をさしはさむ問題ではない。
それよりこのことは日本代表を外された金崎選手にとってもクラブにとっても痛い出来事だったのではないだろうか。
そしてこの事態を収拾したのがこの時監督代行を務めた大岩剛監督のようだ。
大岩剛監督はチームのほころびを修正し好奇の目で追及するマスコミにも毅然とした態度で接したようだ。この時の大岩監督の振る舞いの記憶はクラブ側に残ったに違いない。
大岩監督の采配を評価する向きもあるようだが、采配については石井監督も劣っていないように思う。
その証拠に石井監督はクラブワールドカップ準優勝のほかにもカップ戦のタイトルも手にしていることから分かる。
大宮アルディージャのフォーメーションを短期間で4-4‐2に戻し、シンプルで分かりやすい戦術を採用したことを見てもさすがだと思わせるものがあった。
石井監督が鹿島アントラーズの監督に就任したのにはストーリーがあったようだ。
石井監督の前任のトニーニョ・セレーゾ監督は管理タイプの監督だったようだ。分かりやすく言うと細かいことまで口を出す監督ということになる。それが直接的な原因かどうかは分からないがチームの低迷が順位という数字であらわれてきた時に、比較的選手の自主性を重んじるタイプの石井監督に白羽の矢が立ったようだ。
これはどちらのタイプが良い悪いではなく、チームを進化させる過程で必然的に起こりうる選択ということになる。
このことを鹿島アントラーズの常務取締役兼強化部長の鈴木満さんは
「石井監督が良いとか悪いとかではなく、チームというものは生き物で常に変化する。そのタイミングにあった監督を起用しなければいけない。変化に対応することが大事だった」
というコメントで表現しているようだ。
そして大岩監督の就任理由についても
「チームの現状がよく見えているし、ストレートな物言いができる」
という表現をしている。
「チームの状況」というのは新戦力を含んだ選手のポテンシャルの最大化がミッションであることと読むこともできるし「ストレートな物言い」というのもチームが失いかけた求心力(リーダーシップ)を取り戻すという意味にも解釈できる。
鈴木常務の判断が正しかったことを示すかのように大岩剛監督体制下の鹿島アントラーズは今季第33節終了時点で優勝候補筆頭になっている。
ただし鈴木常務は石井監督の解任には悩んだようだ。そこには選手時代から鹿島アントラーズでキャリアを積んだ石井監督への思いやりや誠意が伺われる。
しかしクラブを強化するという責任ある立場の人間として解任を断行し結果を出したのだ。
大宮アルディージャは奇しくも元鹿島アントラーズ出身で選手やコーチとして長年大宮アルディージャに係わった黒崎久志ヘッドコーチを渋谷監督とともにシーズン初めに簡単に解任してしまった。
その解任理由についても満足に私たちサポーターへは知らされなかった。
いかに鹿島アントラーズと大宮アルディージャが対照的かを示すいい事例ではないだろうか。
こんな言い方はしたくないが、大宮アルディージャにはクラブや関係者への愛がほとんど感じられないのだ。そしてその体制も整っていないように思える。
鹿島アントラーズはJ1で優勝候補になり、大宮アルディージャはJ2に降格したことが、それを何よりも示すものではないだろうか。
いずれにしても来季J2に降格した大宮アルディージャに求められているのは、ずさんなクラブ運営によってバラバラになってしまった選手への求心力=強いリーダーシップだ。
石井監督は数々のタイトルを鹿島アントラーズにもたらした優秀な監督だとは思うが、鹿島での就任と解任のストーリーを見ていると、こんなことが見えてこないだろうか。
つまり石井監督は「采配はいいが、求心力(リーダーシップ)はない。そして采配の要素の中のひとつ、新戦力のポテンシャルを最大化するという点については実績がない」
鹿島アントラーズにもストーリーがあったように、大宮アルディージャにも現状にマッチさせるようなストーリーがあるはずだ。そしてリーグ戦が終わりかけている今、それを長期的に考える必要があるのではないだろうか。
従って私の考えをまとめるとこうなる。
現代サッカーが求める要素、すなわち短期間でミッションをクリアできなかったという短期的な視点と、大宮アルディージャが求める強いリーダーシップならびに新戦力のポテンシャルを最大化する能力が発揮できるかどうか未知数であるという長期的な視点から、石井監督が来季大宮アルディージャの監督になることはありえないと考えている。
最後に・・・
冒頭に大宮が石井監督と契約することに「落とし穴」があると言いましたが、その意味するところは「付和雷同」です。このことについても少し考えていることがあるので、また別の機会にでもブログにあげようと思います。