大河ドラマの原作、林真理子著「西郷どん」にはこんなセリフが出てくる。
島津斉彬が若き日の西郷隆盛にこう聞くのだ。
「大日本史を読んだか」
「大日本史」とは水戸の徳川光圀の時代から水戸藩が膨大な国費をつかって、二百年以上かけて作り上げた、日本の歴史書だ。
現物は見たことがないが、大変な分量で、漢文で書かれているという。
皇統の正統を説き、尊王思想の礎になったとも言われている。
これは直感だが、武士はこんなものを読まない。
というよりは読めない。
分量も多く、たぶん読むのに時間がかかるし、手元に用意できたかもわからない。
これを読んだのはおそらく学者だろう。
西郷のような下級武士は、学者から講義を受けたのではないかと推測がはたらく。
(素人考えなので間違っていたら、ご容赦ください)
では、武士が実際に読んだのは、なんだろう。
それは、おそらく頼山陽だと思われる。
伊藤博文と井上馨がイギリスに留学する時に、持参したのは
頼山陽の「日本政史」とのことだ。
頼山陽でも「日本外史」だと分量が多いから「日本政史」を持っていったらしい。
頼山陽の書物も漢文で書かれているそうだが
夏目漱石は荻生徂徠にくらべて頼山陽の漢文は和臭がする(日本語臭い)と言ったそうだから
日本人からしたら、頼山陽の漢文は読みやすかったに違いない。
今なら日本人が書く英語といったところだろう。
頼山陽は下級の武士階級には
司馬遼太郎のような存在だったのではないだろうか。
司馬遼太郎や吉川英治はとにかく面白い。
面白いだけでなくて、ためになる。
歴史がストーリーで頭の中に入ってくる。
頼山陽の「日本楽府」は漢文ではなくて、漢詩である。
日本の歴史を詩で表現し、しかもそれがストーリーになっている。
単純に歴史を楽しむことができるし、歴史を学ぶこともできる。
そんな頼山陽の「日本楽府」を紹介してくれたのが
渡部昇一先生だ。
春の夜に、漢詩を朗詠しながら、勤王の志士の感覚を追体験するのもいいかもしれない。