遊園地のとしまえんに『トリックメイズ』というアトラクションがあるのをご存じだろうか。木製の立体迷路で、「ファミリーコース」「知力コース」「体力コース」と難易度によって3つのコースがあり、迷路をクリアするには様々なトリックを見破らなければならない。
子どもにせがまれて、何度もとしまえんの『トリックメイズ』にチャレンジしていると、お父さんは疲れてくる。お父さんはついてこなくていい、ということになり、いつの間にか子どもは自力で迷路をクリアして「お父さん、今度は10分でクリアしたよ!」と嬉々としている。
迷路というものは子どもの心をくすぐるようだ。迷路から出られるかという恐怖心、チャレンジしてやるという冒険心、知能や身体を駆使した時の高揚感、迷路から出られない時の挫折感や脱出に成功した時の達成感など、家族と一緒なら協調性や協力関係も求められる。迷路には子どもの知的探求心を刺激するのに十分な要素が詰まっている。
そんな子どもの知的探求心につき合っているとお父さんは疲れてしまうわけだけど、体力を使わずに、しかも大人たちの知的探求心を刺激する読み物の中に『MAZE メイズ 』(恩田陸 双葉文庫 2015年)という小説がある。タイトルは『MAZE メイズ 』ずばり迷路という意味だ。
そもそもミステリー小説には人を迷路に誘い込む要素がある。まず、どうなっているんだ?という好奇心を起こさせる。分からないということに人は興味を持つからだ。分からないことに恐怖を抱いたり推理したりするのも人間だ。幻想を抱かせたり怪奇的なものを感じることもある。
スティーブン・キングは、自分が「なぜ」恐れているかを精神分析することに興味はない、自分が「何を」恐れているかを知ることが重要なんだ、という趣旨のことを言っている。
迷路は「何を」恐れているかを知らせてくれるものなのかもしれない。