3月24日(対UAE戦)と3月28日(対タイ戦)にサッカーの日本代表のワールドカップ最終予選がアウェイとホームで行われたが、日本代表は2連勝し勝ち点6を獲得した結果、残り3試合を前にして勝ち点14になり、2位のサウジアラビアに勝ち点1差、3位のオーストラリアに勝ち点差2とし、予選グループBの順位が1位となった。6月にアウェイでイラク、8月にホームでオーストラリア、9月にアウェイでサウジアラビアと戦う。予選を突破してワールドカップの出場をしてほしい。
勝ち点は収穫であったが、この2試合の最大の収穫はFW久保裕也*だ。日本代表があげた得点は対UAE戦で2点、対タイ戦で4点、計6得点だったが、久保裕也は2ゴール3アシストで6得点中5得点に絡んだ。ゴールもアシストもすばらしいものばかりだった。UAEは日本のスペースを消しボール回しを抑えるためにピッチ幅を4メートル狭め、通常68メールのところ64メートルに修正してきたが、FW久保がその目論見を簡単に打ち砕いた。前半14分、右サイドに開いたSBの酒井宏樹から相手DFの裏を取ったFW久保にきれいにパスが通りダイレクトでニアポストにシュートを叩き込んだ。SB酒井の2タッチパスからのFW久保の1タッチシュートは正確なインサイドキックから生まれたゴールだった。UAEの目論見を無価値化した胸のすくゴールだった。後半6分、MF今野泰幸へのアシストも右サイドのFW久保のセンターリングから生まれた。縦にしかけると見せかけて、左足にボールを持ち直し、左サイドの大裏をオーバーラップしたMF今野へピンポイントのセンターリングがあがった。
タイ戦では前半9分FW香川真司のゴールをアシストした。右サイド裏でボールを受けたFW久保が縦にしかけてから、ややマイナスぎみにグラウンダーのセンターリングをあげた。キックフェイントからのFW香川のきれいなゴールだった。ペナルティーエリアのど真中からのシュートはさぞ気持ちがよかっただろう。演出したのはFW久保だ。前半19分、右サイドに開いていたFW久保にDF森重真人がボールを落とす。FW久保からニアポストに走りこんだFW岡崎慎司に早くて低い弾道でピンポイントのアーリークロスからの得点だった。そしてFW久保自身の得点だ。後半12分、右サイドに開いていた久保がインサイドに絞り込みながらスローインを受け、そのままインサイドにスライドしながら左足のインステップで振り抜きゴール枠の右上ぎりぎりにボールを叩き込んだ。ワールドカップ最終予選での2試合連続ゴールは過去に2人しかおらず、1997年のFWロペス・ワグナーと2012年のDF栗原勇蔵だけだそうだ。
それにしても久保裕也のプレイには感心することが多かった。2つのゴールもさることながら、私が感心したのはFW久保のセンターリングの技術だ。FW久保の3アシストはすべて右サイドからのセンターリングである。しかも、すべて違う技術を用いてセンターリングして見せたのである。順を追って説明したい。UAE戦のMF今野へのセンターリングは、右サイドを縦に仕掛けると見せかけて、左サイドに切り返してからの左足でのセンターリングだった。相手DFはいとも簡単に久保にセンターリングをあげさせてしまったが、久保がうまく相手DFとの距離を作り出す技術があることを示すセンターリングだった。また左足でも正確なパスを出せることを見せた。次にタイ戦のFW香川へのセンターリングは相手SBをドリブルで縦に抜くタイプのセンターリングだった。縦に仕掛ける瞬発力を見せてくれた。最後にタイ戦のFW岡崎へのセンターリングは相手SBを抜き切らないアーリークロスタイプのセンターリングだった。対戦相手DFのスキルが高いとこの技術は非常に重要になる。スキルが高いDFをドリブルで抜くことは困難だからだ。また得点には結びつかなかったが、タイ戦前半25分にはFW香川、前半29分にはFW原口元気、後半37分にはFW本田圭佑へ合わせるアーリークロスタイプのセンターリングがあって、いずれもゴールになってもおかしくない質の高いセンターリングだった。特に前半29分のFW原口へのセンターリングは、右サイドに開いたFW久保へ後方のDFからのロングフィードだったが、FW久保はトラップせず、ダイレクトパスでペナルティアリアに走り込んだFW原口に合わせるという離れ業だった。
FW久保はプレイスタイルこそ違えルイス・フィーゴ*を連想させる。フィーゴはドリブルから点を獲るタイプの選手だったが、センターリングの技術は目を見張るものがあった。相手DFがフィーゴとの距離を縮めるとドリブルで抜いてセンターリングしてしまう。相手DFがドリブルを警戒してフィーゴとの距離を置くと正確なアーリークロスを入れてしまう。フィーゴは自分を優位にさせるための相手DFとの距離感覚を持っいて、自由自在にドリブルやセンターリングをする印象があった。FW久保にも自分を優位にさせる動きができる選手であるとの印象を持った。ワールドカップ最終予選の終盤戦でのFW久保のゴールとアシストを期待したい。
*久保裕也 日本代表。Jリーグでは京都サンガFCに所属(2011年~2013年)。2011シーズン久保は高校生で2種登録選手ながら10得点を挙げて、チーム得点王になった。2011年の京都サンガFCのGMはオシム監督を千葉に招致した祖母井秀隆。スイス1部リーグBSCヤングボーイズ所属(2013年~2016年)。ベルギー1部リーグKAAヘント所属(2017年~)。
*ルイス・フィーゴ 元ポルトガル代表。FCバルセロナ、レアル・マドリードでプレイした。リーガ・エスパニョーラ通算106アシストはリオネル・メッシ次ぐ歴代二位の記録。2000年バロンドール受賞。2001年FIFA最優秀選手賞受賞。