さだまさしの歌は季節感が豊富で、春夏秋冬で歌われていない季節はない。「飛梅」「桜散る」「線香花火」「秋桜」「Ocober~リリーカサブランカ~」「寒北斗」など枚挙にいとまがない。さだまさしは若い頃に“叙情派の旗手”と揶揄されたようだが、叙情だけでなく叙景も素晴らしい。日本の叙景は言うに及ばず外国の叙景もさだまさしの手にかかると“まさしんぐWORLD”*になる。
「長崎BREEZE」*は長崎の叙景と男女の抒情が美しいギターのアルペジオとピアノ旋律に乗せて歌われる。この曲を聴いていると春のそよ風に吹かれているような錯覚におそわれる。ギター旋律は「みるくは風になった」*という曲のモチーフに似ている。まるで風のモチーフがさだまさしを通して表現されているかのようだ。
シングルレコード「恋愛症候群」*の裏ジャケットは確か、さだまさしが和服姿で、一昔前の文学者を彷彿とさせる写真の装丁だった気がする。将来ベストセラー小説を連発させる、“今のさだまさし”を暗示するかのようだ。さだまさしが、「パソコンがなかったら、小説書きにはならなかったであろう」と自ら語っているのを見たことがある。「自分は文章を推敲しなければ気が済まず、手直しが容易なワープロ機能がなければ、小説を書こうと思わなかった」という主旨のようだ。近年は長崎を舞台にした小説も書いているようだが、「長崎BREEZE」は小説で描く何年も前に、さだまさしが長崎を描いた傑作だと思う。男女の恋愛は悲恋でなければならない。シャンソンでなくともそうだ。しかし、さだまさしの悲恋はやさしい。「長崎BREEZE」のそよ風のように、やさしく、切ない。
さだまさしの歌には海のモチーフもたいへん多い。これもご本人が海のある長崎で育った影響が大きいのではないだろうか。「黄昏迄」*という曲も海がモチーフになっているだけでなく、死別する男女が描かれている。「赤い靴」*という曲も海、船がモチーフになっていて、思い出の中の男女が描かれる。海をモチーフに男女の悲恋、死別が思い出という形を借りて愛情たっぷりに描かれている。さだまさしは“死”をやさしく愛情をこめて歌っているような気がする。ちなみに「黄昏迄」は夏に、「赤い靴」は春に聞きたくなる曲です。
桑田佳祐の「風の歌を聴かせて」*という曲も海や死がモチーフになっている美しい曲だと思います。桑田佳祐も海のある湘南出身でしたね。桑田佳祐は季節でいうと圧倒的に夏という感じですけど。
*まさしんぐWORLD さだまさしのファンクラブ
*「長崎BREEZE」 さだまさしのアルバム『自分症候群』(1985年)に収められた曲。CDが再版されています。・・・同名の短編小説&エッセイ集(新潮文庫)を持っています。(著者)
*「みるくは風になった」 さだまさしのアルバム『印象派』(1980年)収録曲 フリーフライト
*「恋愛症候群」 さだまさしのシングルレコード(1985年)フリーフライト
*「風の歌を聴かせて」 桑田佳祐のシングル(2007年)タイシタレーベル/SPEEDSTAR RECORDS
*「黄昏迄」 さだまさしのアルバム『うつろ日』(1981年)収録曲 フリーフライト
*「赤い靴」 さだまさしのアルバム『夢ばかりみていた』(1990年)収録曲 フリーフライト