「歌は文学と違い、読まれるためではなく歌われるためにある」
ノーベル文学賞を受賞したボブ・ディランが受賞講演でこう話したそうです。
フリーライターの夏生さえりさんは、詩人の谷川俊太郎さんから、文字ができる前、詞は音(音楽)として楽しまれてきたことを教わったそうです。(『今日は、自分を甘やかす』ディスカヴァー・トゥエンティワン刊) なるほど、確かに古い叙事詩なんかは文字ができる前は、音として口伝されたのだろうし、ボブ・ディランが若い頃に歌っていたフォークソングも文字ではなく音楽として伝承されてきた。
ボブ・ディランの歌で『It's Alright,Ma(I'm Only Bleeding)』(イッツ・オールライト・マ)という長ったらしい歌があるけど、私は若い頃この歌を全部歌うことができた。普通に文章だけで暗唱しようとしたらできなかったと思うけど、長い英詩を何故か全部覚えてしまった。詞の内容も抽象的で一見意味も分かりにくい歌だけど、音楽に乗せると不思議に覚えられてしまう。というのもボブ・ディランの歌詞はほとんど韻を踏んでいて、抽象的な詞であっても韻が踏んであるおかげで、なんとなく覚えられてしまう。谷川俊太郎さんは「詞の意味なんてどうでもいいんだよ」と言っていたそうだけど、『It's Alright,Ma(I'm Only Bleeding)』を歌っているとわかる気がするなあ。ちなみに気分がいい時につい口ずさんでしまうボブ・ディランの歌がいくつかある。分かりやすいラブソングもあるし、ボブ・ディラン独特の抽象的な詞もあるけど、メロディーと韻を踏んだ詞が心地いいものばかりだ。
『Desolation Row(廃墟の街)』(アルバム『追憶のハイウェイ61』1965)
『Jokerman(ジョーカーマン)』(アルバム『インフィデル』1983)
『Emotionally Yours(エモーショナリ―・ユアーズ)』(アルバム『エンパイア・バーレスク』1985)
『I Shall Be Released(アイ・シャル・ビー・リリースト)』(アルバム『ブートレッグ・シリーズ第1〜3集』1991)
『Make You Feel My Love(メイク・フィール・マイ・ラブ)』(アルバム『タイム・アウト・オブ・マインド』1997)
これはほんの一部でまだまだあるよ。