『近松青春日記』というドラマをご存じでしょうか。
ちょうど16年前(1991年)の今日9月6日に放送が開始されました。
近松門左衛門の青春時代を描いたドラマで、近松門左衛門が体験したエピソードをもとに人形浄瑠璃の戯曲を作っていくというドラマ。
私はこのドラマがもとで近松門左衛門と人形浄瑠璃の魅力を知りました。
ドラマのエンドロールで人形浄瑠璃の心中のシーンが映しだされる。エンディング曲は上田正樹さんの『ずっと遠くで』。曲調はモダンなバラードだが、美しいほどに人形浄瑠璃の心中シーンとマッチしている。
近松門左衛門の心中物を文学者のドナルド・キーン先生は高く評価した。ドナルド・キーン先生が市川猿翁(当時 市川猿之助)さんとの対談で面白いことを言っていた。
心中するふたりは遊女や商人など市井に暮らす町人にすぎない、それなのに道行(みちゆき)のシーン(心中するシーン)になると、まるでふたりの身の丈が大きくなったかのようにオーラを発する、というような表現だったと思う。
ドラマ『近松青春日記』のエンドロールはドナルド・キーン先生の表現を言い当てているように美しかった。上田正樹さんの『ずっと遠くで』も良かったしね。
市川猿翁(香川照之さんのお父さん)さんの大学の卒業論文は近松門左衛門。同じ近松門左衛門の作品でも、人形浄瑠璃と歌舞伎で描かれた場合の違いや、それぞれの魅力を論文に書いたそうだ。
近松門左衛門の作品の中では『冥途の飛脚(めいどのひきゃく)』が好きだ。
歌舞伎では『恋飛脚大和往来(こいびきゃくやまとおうらい)』と改作されて上演される。
遊女梅川と飛脚問屋忠兵衛の悲恋物で『梅川忠兵衛(うめがわちゅうべえ)』とも言われる。
歌舞伎で二代目中村又五郎が演じる忠兵衛の父孫右衛門が好きだった。
ドラマ『近松青春日記』でも『冥途の飛脚』はしっかり描かれている。梅川を麻丘めぐみさんが演じて可愛かったですよ。
ドラマ『近松青春日記』の面白みは、近松門左衛門が遭遇したエピソードをもとに人形浄瑠璃を作るという仕立てになっているところだ。
ドラマ『近松青春日記』には『曽根崎心中(そねざきしんじゅう)』も出てくる。お初と徳兵衛の心中物だが、ドラマ『近松青春日記』ではふたりは心中できない。近松門左衛門は心中できなかったふたりの気持ちを思いやり、人形浄瑠璃の作品の中でふたりを心中させてあげるのだ。
『女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)』では与兵衛を内藤剛志さんが熱演している。
実際の史実にはなかったと思うのだが、井原西鶴が出てきて若い近松門左衛門にアドバイスしたり、事件に絡むシーンがある。
近松門左衛門を高嶋政宏さん、井原西鶴を二代目桂枝雀、下宿屋の女中はつを若村麻由美さんが演じている。
桂枝雀演じる井原西鶴がはつが行水しているところを覗き見するコミカルなシーンも描かれていて面白いですよ。
語りを上岡龍太郎さんがやっていて、上方の雰囲気を盛り上げてくれる。
『曽根崎心中(そねざきしんじゅう)』の美しい道行を語ってくれます。
「此の世のなごり。夜もなごり。死に行く身をたとふれば、あだしが原の道の霜」
あ~秋ですね。文学や音楽にどっぷり浸りたい。