書店で『あの世に聞いた、この世の仕組み』(雲黒斎 サンマーク文庫 2020年)が文庫化されているのを見つけた。この本の初版は2010年。私が買ったのは2012年頃で、この本のタイトルとペンネームに魅かれて買ったのを覚えている。初版から10年たって文庫化された本が目に飛び込んできたのだから、これも何かの縁。ブログに取り上げてみようと思う。
雲黒斎(うん・こくさい)
なんともふざけたペンネームではないか。かつて作家の遠藤周作も雅号として雲谷斎(うんこくさい)を名乗って、文壇の失笑を買ったようだが、本人はそんなことはお構いなし。ユーモアのセンスはファンの心を掴んで、当時私の周りではなぜか学校や予備校の先生に人気があった。
さて、「あの世」とか「この世」とかいうと、それだけで「うさんくさい」と言われそうだけど、断っておくと、この作家は「うんこくさい」だからね。
僕の頭の中に、僕の思考ではない「なにか」が忍び込んでくる。そしてその「なにか」は僕を挑発する。
「思考を止めてみよ」
そんなこと言われたって、素人になかなかできるもんじゃない。禅寺で長年修業したってそんな境地にたどり着けるか分からない。ところが僕には僕の思考ではない「なにか」が聞こえたわけだから、「なにか」が「思考を止めてみよ」と挑発するまえに思考が止んでいたことになる。
それは恐らくこういうことだろう。
この作家はうつ病になった経験をプロローグに書いている。そして「なにか」が聞こえるようになった頃も、まだ通院中であることが書いてある。つまり、うつ病になって、心療内科に通い、強い副作用の出る抗うつ剤を服用しているために、なかば強制的必然的に思考が停止する状態が生み出されていたのではないだろうか。
この本が生み出されるきっかけになったのは恐らくこの「思考が停止した」ことに関係がある。思考が停止した状態で、人は「幻想」を生み出すことは難しそうだ。