「ありゃあリネット・リッジウェイだね!」
「うん、彼女だ!」
酒場〈三冠亭〉の主人バーナビーは、そばにいる友達に相槌を打った。
(アガサ・クリスティー『ナイルに死す』)
アガサ・クリスティーの名作『ナイルに死す』に登場する田舎町にある酒場の主人の名前は「バーナビー」。もっとも、この酒場の主人が出てくるのは、冒頭と末尾にそれぞれ一回だけで、物語の本筋には登場しない。たまたま『ナイルに死す』を開いたら「バーナビー」という名前が出てきたので偶然に驚いた。
偶然というのは、先日アンソニー・ホロヴィッツの脚本ドラマがAXNミステリーで特集されていて、その中に『バーナビー警部』というテレビドラマがあったからだ。特集は人気作家アンソニー・ホロヴィッツが手掛けたテレビドラマの中から『バーナビー警部』『刑事フォイル』『名探偵ポアロ』『ニュー・ブラッド 新米捜査官の事件ファイル』の4つを放送したもので、私は『名探偵ポアロ』以外は知らなかった。
アガサ・クリスティー原作の『名探偵ポアロ』の面白さは言うまでもないが、他の3つのドラマの中で一番気に入ったのが『バーナビー警部』だった。ベテラン刑事バーナビーが田舎町でおこる事件を解決していくという物語だ。
AXNミステリーの特集で放送されていたのは『バーナビー警部』シリーズの中の「謎のアナベラ」「審判の日」という話し。『バーナビー警部』の舞台は田舎が多いようだ。全作見たわけではないのでわからないが、ロンドンのような都会ではなくて、田舎町の、どちらかというと裕福な人たちが登場する。イギリスの田舎町が舞台になっているので、都会の喧騒感はなく、田舎の建物や田園風景を楽しめる。バーナビー警部も奥さん、娘さんと素敵な家に住んでいて、イギリスの田舎暮らしを見ることもできる。
初期の頃の作品の脚本はアンソニー・ホロヴィッツが手掛けているそうなので、今や小説で人気作家になったホロヴィッツが当時どんなミステリーをテレビドラマで描いていたのか、という視点で見ても面白い。ほぼ毎日放送があるようなので、当面は楽しめそうだ。