先月11月1日に林真理子の『西郷どん』が角川書店から出版された。
これは来年の大河ドラマ『西郷どん』の原作になっている。
私の地元の本屋の店頭に並んだのは11月下旬くらいだったと思うが、購入して読み終わっていた。
11月下旬はJリーグか佳境に入っていたのでブログの投稿が遅くなってしまった。
林真理子の『西郷どん』は大河ドラマのために当て書きされた本のようだ。著書の後書きの協力者の中に大河ドラマの脚本を担当する中園ミホや大河ドラマのスタッフがあげられていることからもそのことが窺える。『西郷どん』は角川書店の『本の旅人』という雑誌に2016年2月から2017年9月まで連載されている。約1年半の連載ということになる。
この本を読んで感じたのは西郷隆盛について非常に簡潔に書かれた大河ドラマのための「シナリオ」というような印象だ。
大河ドラマという性質上、前半部分で西郷隆盛の生い立ちについて丁寧に書かれていることを除けば、歴史上の事実については簡潔に要点だけを淡々とした筆致で書いている印象がある。小説の中には巷間に人気がある坂本龍馬なども登場するが、その係わりについては必要最小限にとどめている。
登場人物たちの会話も必要なこと以外は言わせていないようにして、大河ドラマの脚本家が想像力を働かせて会話を膨らませることができるような余地がある小説になっている。小説のチャプターにタイトルが無いことも、脚本家が原作に縛られることなく自由にタイトルをつけられるような配慮があるのかもしれない。
林真理子の筆力ならば、明治維新には膨らまそうと思えばいくらでも膨らますことができるような歴史的な事実があり、会話によって登場人物たちに多くを語らせることもできたと思うが、おそらく大河ドラマの制作に係わる時間的な制約と脚本家がその想像力を限定されないような配慮もあったのかもしれないと考えると、小説が簡潔にまとめられた内容になっていることも分かる気がする。
この部分はもう少し分厚く取り扱ってもいいのではないかと思う歴史上の出来事もあったが、逆に余計な斟酌を挟まず、要点だけをかい摘まんでストーリーが展開するために、西郷隆盛の生涯を一気通貫に読むことができる。またこれが映像化された時に、要点になっている歴史的事実が大きく取り上げられるのかもしれない。
勤王の志士たちの思想的な背景もしっかりと描かれていることから、この『西郷どん』という小説は明治維新の歴史に比較的疎い初心者にもってこいではないかと思う。ダイナミックに動いた日本の幕末を西郷隆盛の視点で見ることができるだろう。時間的に余裕のある人は司馬遼太郎の「翔ぶが如く」なども併読するといいかもしれない。
翔ぶが如く (新装版) 文庫 全10巻 完結セット (文春文庫)
私は若き頃の西郷が、僧侶と入水自殺を図ることは知っていたが、なぜ”僧侶”と自殺しようとしたかについては知らなかった。小説を読むとそれがよく分かるようになっているので、林真理子に感謝したい。