女「あの男最低!知性なんて猿以下だわ!」
私「いや・・・そんなはずはない。」
ベストセラー新書『知的生活の方法』(渡部昇一 1976年)を久しぶりに読み返していたら、自分が引いたアンダーラインの箇所にこんな記述を見つけてついうれしくなってしまった。
……ダーウィン以来、人間と他の動物との境界が少しぼやけているように見えるが、仮説上はともかく、実際問題としては人間と動物は本質的に違ったものである。そして人間と動物を決定的に分つもの、それが『知』である。
……知の働きはこの自然界において周囲の自然とは全く異質なものである。
これと同様のことを言ったのがダーウィンと並び進化論の生みの親でもある自然科学者のアルフレッド・ラッセル・ウォレスだ。
『人は老いて死に、肉体は亡びても、魂は存在するのか?』(同 2012年)この本の第4章に「ピルトダウン人事件」のことが出てくる。イギリスのピルトダウンというところで、類人猿から人間への進化を繋ぐ「猿人」と目される頭蓋骨が発見され、後にそれは真っ赤な偽物であることがわかったという事件。当時の人類学者達は、これこそダーウィンのいうミッシング・リンク(欠けた環)の発見で、進化論が人間においても完成したと湧きたった。
そんな中でウォレスだけは「そんなはずはない」と言い続けた。ウォレスはダーウィンと並ぶ進化論の生みの親なのに?ウォレスはこう言っている。
「進化論が適用できるのは人間の前までで、人間の脳においては進化論は適用できない。」
人間の脳には『知』の働きというものがある。ウォレスは、適者として生存するために『知』を働かせる必要がないことに進化論をつきつめていく中で気づいていた。その脳の働きによって、人間だけは進化論の外にいることを悟っていたのだ。
『人は老いて死に、肉体は亡びても、魂は存在するのか?』の著者、渡部先生が最後に書こうとしていたのはアルフレッド・ラッセル・ウォレスについてだったという。それは先生の逝去(2017年)によって幻の著書になった。が、ウォレスの精神的な世界は『人は老いて死に、肉体は亡びても、魂は存在するのか?』によっても十分に読み取ることができる。ウォレスは自然科学で多大な功績を残したにもかかわらず、スピリチャリストであったために自然科学界からつまはじきにされ、ダーウィンが名声を残した一方で忘れ去られていったという。
ピルトダウンで見つかった頭蓋骨は組み合わさった骨の年代が違うことから、それが偽物だということがわかったらしい。多くの人類学者は騙しおおせても、ウォレスだけは騙されなかった。
「男の知性が猿以下だって⁉そんなはずはない。猿には知性がないんだよ!」
※『人は老いて死に、肉体は亡びても、魂は存在するのか?』(2012年 海竜社)を改訂した新書版がでています。『魂は、あるか?』(2017年 扶桑社新書)。内容が改訂されているのでご注意ください。