『このミステリーがすごい!2020年版』(宝島社 2019年)が昨年末に売り出されていることは知っていた。今年の表紙は乃木坂46の白石麻衣。書店の面陳列に見かけても何度も素通りして買わない。というのもこの雑誌は体に悪い。国内外のミステリー小説のランキングのほか、人気作家の新作情報やトピックスも満載。ほら読め、ほら買え、読まずに死ねるのか?と購読意欲を煽ってくる憎い奴で、その罠にハマって読み始めると止まらなくなり、他のことが手につかず生活に支障をきたしかねない。
去年もその罠にハマった。それまで読んだこともなかった作家も知った。『それまでの明日』(原尞 早川書房 2018年)がそう。ハードボイルドも初めて。私にも馴染みがある新宿が舞台になっていてドンドンのめり込んだ。作家の原尞は『このミステリーがすごい!’89』で1位になっているというから、実に30年経って再び1位になったことになる。これは何を意味しているかというと、まず30年間現役だったということ。そして30年経っても読者に人気が出るような作品を作る力があるということだ。分野は違うがボブ・ディランがそうだ。米アルバムチャートで1位になったミュージシャンで30年後に1位になったのはボブ・ディランだけだそうだ。
『このミステリーがすごい!2019年版』(同 2018年)がなければ、たぶん私は原尞を読まなかったし、原尞が現役であり続けていてくれたからこそ作品に触れることができた。
もともと私はミステリー小説をほとんど読まなかった。コナン・ドイル『シャーロック・ホームズ』やG・K・チェスタトン『ブラウン神父』のシリーズものを少しばかり読んでいる程度だった。その私がミステリー小説を読むようになったのはつい最近で『このミステリーがすごい!』の影響は大きい。
2020年版『このミス』はどんな作家や作品に出会えるのか。そして私は寝不足になる。