写真は角川書店の『世界の詩集 バイロン詩集』※残念ながら『ドン・ジュアン』は収録されていません。
ボブ・ディランが20代前半でニューヨークに上京した時、グリニッジビレッジにほど近いキャナルストリートの南側あたりに住んでいたようです。そこの家主のレイ・グーチという人がボブ・ディランにとって文学の素養を形成するのにキーマンとなったようです。
レイ・グーチという人はヴァージニア州出身でボブ・ディランより当時10歳年上の南部主義者で、先祖に教会の高位聖職者、将軍、植民地時代の総督までいる名門の出だったそうです。レイ・グーチはかつて陸軍士官学校に入っていたほどのエリートで、バイロンの『ドン・ジュアン』やロングフェローの『エヴァンジェリン』一部を記憶していて引用することができたといいます。そんなレイ・グーチの書斎にある書物からボブ・ディランは影響を受けることになります。床から天井まで書物が詰まった部屋に入ると「この部屋の本には圧倒的な存在感があり、ばかのままでいたいという気持ちを失わずにはいられない」とボブ・ディランは回想しています。書斎には金石学、歴史、哲学、政治的イデオロギーなどあらゆるタイプの書籍があったようです。ちょっと面白いので羅列してみましょう。
ペダニウス・ディオスコリデス著『薬物誌』、フォックス著『殉教者の書』『ローマ皇帝伝』、タキトゥスの講話集とブルトゥスに宛てた書簡集、ペリクレスの『民主主義の理想形態』、トゥキュディデスの『アテネの軍司令官』、マキャベリ『君主論』、ダンテ『神曲地獄篇』ルソー『社会契約論』、フローベール『聖アントワヌの誘惑』、オウィディウス『変身物語』、ソポクレスの本、デイヴィ・クロケットの自伝、シモン・ボリバルの伝記、フォークナー『響きと怒り』、アルベルトゥス・マグヌスの本、バイロン、シェリー、ポーの詩集、ジョセフ・スミスの本、レオパルディ『孤独の生涯』、フロイト『快感原則の彼岸』、ロバート・E・リーの伝記、ミルトン『ピエモンテの虐殺』、プーシキンの詩、サディアス・スティーヴンスの伝記、セオドア・ルーズベルトの本、フリードリッヒ大王の伝記、クラウゼヴィッツ『戦争論』、ゴーゴリ、バルザック、モーパッサン、ユーゴ―、ディケンズの小説。その他美術や実用書も置いてあったようです。
ボブ・ディランは全部は読んでいないと言っていますが、彼はどんなことに興味を持っていたのでしょうか。